粟津温泉・温泉街
粟津温泉（石川県小松市）の歴史は古く養老２年、泰澄大師が白山で修行していた際、白山大権現の化身が霊夢に立ち霊泉の存在を知らされたのが始まりと伝えられています。泰澄大師は源泉を見つけると雅亮法師（初代善五郎）に湯守になることを命じ、湯宿を開いたそうです。その時開いた法師旅館は記録として明確な湯屋としては世界最古の温泉宿とされギネスブックに登録されています（現在では慶雲館・慶雲２年）。雅亮法師は聖観世音と薬師如来を安置する為に泰應寺（大王寺）を開山し粟津温泉の開発に尽力しています。正暦元年には花山法皇、寛永１７年には加賀藩２代藩主前田利常などが那谷寺（小松市）参拝の際、粟津温泉を利用しています。明治から昭和初期の文豪、田山花袋が編纂した「温泉めぐり」でも粟津温泉の事を紹介しており「粟津温泉は一番静かで居心地がよかった」と紹介しています。
白山大権現は白山妙理権現とも呼ばれ、所謂、白山信仰の神仏習合時代の祭神の呼称で、明治時代の神仏分離令や廃仏毀釈運動後は白山比咩神や菊理媛神が同義として改称されています。加賀国（石川県）では白山頂上への登拝口の一つである加賀馬場の拠点となった白山寺白山本宮が明治維新後に一旦解体され仏教や修験道を排した白山比咩神社（白山市）として再編されました。白山比咩神社の当時の宮司は政治的な感性が高い人物だった事から、各方面に働きかけ、白山比咩神社を白山信仰の本社として格付けを行いさらなる飛躍を遂げています。粟津温泉も白山信仰の強い土地柄の一つで、近くにはこちらも白山信仰の拠点となった那谷寺が境内を構えています。
【 那谷寺 】－那谷寺は粟津温泉が発見される前の養老元年（７１７）に泰澄大師が白山で修行していた際、感得した千手観音を模した木像を自ら彫刻し、岩窟内部に安置して創建されたと伝わる古寺です。寛和２年（９８６）、花山法皇が訪れ千手観音像の姿を見た際、西国三十三観音霊場の全ての本尊の霊気を感じた事から1番札所の那智山青岸渡寺と３３番札所の谷汲山華厳寺から１字ずつ合わせ、「那谷寺」に寺号を改めたとされます。その後、那谷寺は白山信仰の拠点の一つとして大きく繁栄していましたが、室町時代中期以降は一向一揆の台頭を許し荒廃を余儀なくされます。寛永１７年（１６４０）、花山法皇縁の那谷寺の荒廃を憂いた後水尾天皇は、加賀藩２代藩主前田利常に命じて再興を図り、以後、前田家の祈願所として庇護されました。利常は小松城に隠居した際、小松黄門とも呼ばれ、粟津温泉の温泉街には利常が手植えしたと伝わる「黄門杉」と呼ばれる杉の古木が残されています。
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